外資系のITコンサルタントの提案書には、「欧米先進企業では、、、」という見出しから始まるものが多いが、先に見たように、米国と日本ではIT産業構造そのものが全く異なる。
今回は日本のIT産業構造とIT部門の意識について考えてみたい。
日本の産業構造
大手システムインテグレータが主導する日本のIT産業
日本のIT産業は、就業者数では約110万人と、米国の約1/5の規模であるが、その産業構造は全く異なるものとなっている。
日本では一握りの大手システムインテグレータ(以下「大手SIer」)が売上構成の約半分を占める構造となっており、 米国で圧倒的な地位を築いているIT製品プロバイダーの規模は小さい。(最近増加傾向にはある)
人員の9割以上を占める中小ITベンダーは、その大部分が大手SIerの支配下に置かれており、大手SIとその配下の中小ITベンダーを合計すると、 実に70%以上の売上が大手SIer関連で占められていると言ってよい。
| 階層 | プレーヤー | 企業数 構成比 | 人員 構成比 | 売上 構成比 | 一人あたり 売上 |
|---|---|---|---|---|---|
| T-1 | IT製品プロバイダー オービック、Sansan、freee、SmartHRなど | 6.5% | 11% | 16% | 2,500万円 |
| T-2 | ITコンサルファーム アクセンチュア、デロイト、アビーム、ブティック系など | 2.1% | 9% | 11% | 2,000万円 |
| T-3 | 大手システムインテグレータ 富士通、日立、NEC、NTT、NRI、TIS、SCSKなど | 0.4% | 31% | 47% | 2,571万円 |
| T-4 | 中小ITベンダー 大手SIerからの下請け開発、SE派遣など | 91.0% | 49% | 26% | 909万円 |
出所
- 経済産業省「情報通信業基本調査」
- IDC Japan
- 矢野経済研究所
大手SIerが推進する大規模スクラッチ開発
優秀なITエンジニアは、米国のように製品プロバイダーに就職するのではなく、大手SIerに集まってくる。 (最近ではSaaSを起業する人も増えてきてはいるが、まだ未成熟)
大手SIerのビジネスの源泉は、大型システムの構築とその保守運用であり、 社員の目標は、開発体制1,000人を仕切ることのできるプロジェクトマネージャ(PM)だ。 (役員の多くは、大規模開発で名をあげたPM出身者だ)
これは、日本に独特の産業構造であり、欧米とは全く異なる世界観がそこにはある。 そして、日本のIT部門のカウンターとなっているのは、この大手SIerたちなのである。
日本のIT部門の意識
日本のIT部門も1970年代くらいまでは、総務部電算課の延長であり、間接材調達部門の一つだった。
しかし、(大型汎用機メーカーを発端とする)大手SIerがフルオーダーのシステム構築提案を仕掛けた結果、 独自のシステム構築をITベンダーに委託開発してもらう、という構図が次第に確立していった。
そして、日本のIT部門には次のような意識が芽生えていったのである。
- 事業戦略に則って、ITベンダーに戦略的なシステムを作らせるのが役割
- いや、IT戦略は事業戦略の一部であるべきだ
こうした意識が芽生えた理由の一つは、IT担当役員の多くが総務系の文系出身者であったことも起因していると思う。 いずれにしても、これは米国のIT部門には全くない意識である。
レガシー資産の蓄積と意識の変化
2000年代に入り、作ったITベンダーしか保守できない独自のシステム群が大量に蓄積して、 膨大な保守費がIT予算を圧迫する事態が表面化してきた。
それにともなって、IT部門の意識はおおよそ次のように変化してきた。
- 欧米のようにERPパッケージを導入し、業務をシステムに合わせないといけないのではないか。
- ベンダーへの丸投げはだめだ。内製化してシステムを自分達のコントロール下に置くべきだ。
- そのためには、事業会社であっても、IT人材育成を推進する必要がある。
こうした課題意識が、第1回のコラムで紹介した、ITコンサルタントの「IT部門変革」提案書へのつながっていった。
簡単には解決しない構造的問題
しかし、このレガシー資産問題は簡単には解決しない。 問題提起されてから20年以上たっても本質的な問題は一向に変わっていないし、おそらくこのままでは変わらないであろう。 その理由は大きく3つだ。
大手SIerの抵抗
まず、レガシー資産は大手SIerにとっては、定常的な収入を生み出すビジネスの根幹だ。 レガシー資産をERPに移管するにしても、内製体制で再構築するにも、構築したベンダーの協力が不可欠だが、彼らにはそのモチベーションがない。
ERPパッケージに合わせることができない
結局のところ、業務のやり方を変えることができない。 (どの国でも)事業部門 > IT部門 の力関係は変わらないので、IT側の都合で業務フローを変更するというのは受け入れられない。
欧米でそれができているのは、それしか方法がないからだ。 前のコラムで述べたように、欧米には日本のSIerのような柔軟にシステムを構築してしまうベンダーがいないので、そのまま使うしかないのである。
内製化しても本質的には同じ
仮にITエンジニアを採用して、内製開発したところで本質的には何も変わらない。 事業会社にとってのITエンジニアは専門職種であり、事業会社の人事主線に乗らないことが外見的に明らかだ。
内製化が成功するとすれば、そのようなポジションでありながら、 運良く優秀なITエンジニアを採用することができ、生涯現場で活躍してくれる、という好条件が重なった場合だけだ。
そうでなければ、結局は大手SIerに丸投げになって、形ばかりの内製化になってしまうだろう。
ではどうしたらよいのか
短期的な解決策と中長期目線のありたい姿を、次回以降のコラムで書きたいと思う。
まとめ
日本のIT産業は、優秀なIT人材を抱える大手SIerが「事業会社向け独自システム開発」を行うかたちで成長してきた。
その結果、構築ベンダーしか保守できないレガシー資産が大量に蓄積し、保守コストがIT予算を圧迫する状況になっている。
IT部門の問題意識は高まっているものの、大手SIerによるロックイン状態の解消は難しく、IT部門の長期的な地位低下を引き起こしている。
