筆者は前職で海外のITサービス企業を買収し、米国のITマーケットを3年ほど観察してきた。 その経験から分かったことは、IT先進国であるはずの米国のIT部門の意識は日本とは全く違うということである。
米国では、日本にみられるような「IT部門が先頭にたって」「経営をITで変革」といったような意識は全くない。 米国のIT部門は、ITの調達管理部門でありコストセンターであると割り切っている。 この違いはどこからくるのであろうか。
その背景には日米でのIT産業の構造的な違いがある。まずは米国のIT産業がどのような構造にあるのか見てみよう。
米国のIT産業構造
極端なピラミッド構造
米国のIT産業は、ごく一部のビッグIT企業が売上の約7割を占める、という構造になっている。 そしてIT人口の半分以上を占めるITサービスベンダーの「一人当たり売上高」はビッグITのおよそ1/10しかない。
| 階層 | プレーヤー | 企業数 構成比 | 人員 構成比 | 売上 構成比 | 一人あたり 売上 |
|---|---|---|---|---|---|
| T-1 | Big ITプロバイダー Apple, Google, Amazon, Salceforceなど | 0.1% | 20% | 68% | $1,600 K |
| T-2 | 大手ITコンサルファーム Accenture, Deloitte, IBMなど | 8.2% | 26% | 13% | $231 K |
| T-3 | その他ITサービス 地域ITサービスベンダー、マネージドサービスなど | 91.6% | 54% | 19% | $167 K |
圧倒的な給与価格差
「一人当たり売上高」の差は当然、報酬額に反映される。以下は代表的なビッグIT企業の報酬水準だ。
30歳で平均的に5,000万円程度もらっていることがわかるだろう。 一方で一般のITサービスベンダーは日本と同程度の給与水準+アルファと考えてよい。
| 経験レベル | Amazon (AWS) | Microsoft | |
|---|---|---|---|
| Entry (0〜2年) | $216,000 | $190,00 | $155,000 |
| Mid (3〜6年) | $297,000 | $271,000 | $225,000 |
| Senior (5〜8年) | $423,000 | $390,000 〜 $420,000 | $248,000 |
| Principal (8年〜) | $614,000 | $457,000 〜 $624,000 | $340,000 |
出所
- CompTIA (2026年): "State of the Tech Workforce 2026"
- Splunk / BLS (2026年): "2026 IT and Technology Salary Guide" (米国IT労働者の平均給与、AI・クラウド分野の給与プレミアム傾向)
- Coursera / Glassdoor (2026年): "Technology Consultant Salary 2026" (ITコンサルタントの平均給与15万5,000ドル〜)
- Road to Offer (2026年): "Consulting vs Tech 2026" (ビッグITとコンサルティングファームの給与・株式報酬比率の比較)
- Grand View Research / IDC: "U.S. IT Services Market Report" (米国ITサービス市場の成長率と規模感)
- Levels.fyi (2025年): 給与データベース
米国におけるITエンジニアの意識
優秀なエンジニアは T-1/T-2 企業に集中
優秀な学生は(当然ながら)高い報酬とあわよくばアメリカンドリームを狙っているため、 IT系を志向する優秀な学生は、T-1への就職をめざす。 技術でトップになれないと思った優秀層はT-2(ITコンサル)をめざす、という流れが自ずと生まれる。
彼らのゴールは、いうまでもなく起業だ。 最近は、ビルゲイツやザッカーバーグの時代と違い、在学中から起業する若者は減っていて、大企業で会社の仕組みを学んでから起業することが多いようだ。
T-3層にとって、T-1はあこがれ
そして、T-1/T-2 に入れない人がT-3に入るということになる。 また、T-3の層には、もともとIT系でない人たちもたくさん存在しており、主に維持管理、オペレーター業務についている。 T-3層にとって、T-1企業はあこがれであり、彼らの作った製品を扱うことに誇りをもっている社員が多い。
IT部門の人たちの意識
500万人のIT専門職をかかえるIT部門
さて、本題のIT部門である。 米国のIT就業者数は980万人いると言われており、これまでみてきたIT産業に所属しているのは、その半数である。 残りの半数(約500万人)は、IT専門職として一般事業会社のIT部門に勤務している。
IT部門はシステムの調達管理
500万人といっても、米国には中小企業が3,300万社もあるので、一部の大企業を除いてIT部門の要員数がそれほど多いわけではない。 一社あたりは少ない人数(いないことも多い)で、ITベンダーに丸投げ(マネージドサービスという)していることがほとんどである。
その役割は、システム(ベンダー)の調達管理であり、QCD(品質、コスト、納期)を最適化することがミッションだ。 利益目標はなく、明確にコストセンターである。
コンサルタントがITによる事業変革の例として、ウォールマートや金融機関を引き合いに出すと思うが、 彼らはグローバルに展開する巨大企業であり、IT部門に数千名をかかえる極めて特殊な形態だ。数千名の人員コストを経営として正当化するためのロジックを組み立てている側面が大きい。 実際にそうした企業においても、IT部門に利益目標はなく、QCDを最大のミッションにおいていることに変わりない。
IT部門は独自のシステムを構築することなど考えていない
IT部門の発注先は、T-2コンサルファームとT-3ベンダーである。(T-1製品ライセンスの販売代理収入もT-2/T-3の貴重な収入源)
T-2/T-3ベンダーにはシステムを一から構築する力量はなく、T-1製品の組み合わせと、その隙間の小規模開発ができるだけだ。 よって、はなから「事業戦略に合わせて独自のシステムを自分たちで作ろう」などとは考えていない。
CIOのかかげるIT戦略とは、「予算に合わせて、製品やサービスの組み合わせを最適化する」ということに他ならない。 日本のCIOやIT部門の意識とは全く異なるのである。
まとめ
米国のIT産業は、一握りのビッグIT企業を頂点とした巨大かつ極端なピラミッド構造にあり、優秀なITエンジニアはビッグIT企業に吸収されてしまっている。
そのため、一般ITベンダーには事業戦略に合わせてシステムを構築する能力はなく、IT部門はその前提でコストセンターとして機能しているという構図になっている。
日本のIT産業とは状況が全く異なっており、IT部門の在り方も日米では自ずと変わらざるを得ない。
